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今日もサボっている。

しんじゃがの話

気温が下がろうが風が強かろうが、ここのところ春だ。
サクラナノハナタンポポレンゲ、春の花は小さいやつが群がって一気に咲くイメージ。集団の勝利する季節である。街には新しい人たちが溢れている、ブカブカの制服やイケてない黒いスーツ、同じくらいの垢抜けなさ、を互いに敵ではないことの証として、小花のように群を成して歩く。
いつか自分も同じように歩いた記憶、あるいはうまく群に入れなかった記憶、あるいはそこにいながらもはみ出していった心をすくってやれなかった記憶。どれもあるような気がする。気がする、だけで傷つくことができるのが春です。


正午過ぎ、新じゃがを茹でる。
しんじゃが、とスマホで打つと予想変換の最初は「信者が」である。昨日外勤していて、得意先を出て車に乗ろうとしたら、自転車押しつつ婆さんが駆け寄ってきた。ペラペラの薄い紙をぐいと押し付けるように差し出し、読んで下さい、救いの言葉です、と言う。読みます、と言って受け取る。
車の中で見ると、「運命の転換」とタイトルにあった。A5の紙一面に縦書き。最後まで読んで、ラストの一文「困るたびにどんどん成人して、雪だるまのように幸運のリズムがついて来ます。」に唸る。どういうことだ。視点と感情が固まっている人の文章だった。
ゴロン、ゴロン、とリズムよく弾み膨張しながら得意先の前の道を転がっていくさっきの婆さんを想像した。
あのあとどこに行ったのだろう。


で、新じゃがなのだが、茹でて、潰して、バターと塩胡椒と牛乳を加えて、もっと潰した。不細工なオムレツを焼き、キャベツとウインナーも茹でて、潰した芋と一緒に皿に乗せた。
卵とキャベツとウインナーと芋、昼過ぎなのに朝ごはんみたい、あとドイツみたい。素材が。一人もそもそと食べる。
ろくな料理ができず、何時であろうと朝ごはんしか作れない。朝ごはんしか作れないまま季節は巡り今年もまた春が来て新じゃがを、特に「新」さを活かすこともなく潰して食べ、たしかに雪だるまのようにある一定のリズムで転がってはいるが、巻き付けてきたのは見知らぬ人に道端で突如「読んで下さい」と言われて「読みます」と返せる程度のコミュニケーション能力、皮下脂肪くらい。

しかし、ともあれ。ここのところ春なのだ。何をしようね。もうすぐ30年生きてしまってることになるけど、ドイツ人とふれあったことはまだないね。


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by qrtmm | 2019-04-13 18:19